2004年02月11日
一月ほど前の話だが、酔って真夜中に一人で街をさまよっている時に、
横断歩道の真ん中で、世の中のありとあらゆる俗物に押し潰されそうになる錯覚を味わった。
あれは悲しかった。
今でも思いかえしたらすぐにでも悲しくなれるくらい惨めな気分だった。
あの時そんなに悲しい俺は、いったい何と闘っていたのか。
酔っていたし、それは今もわからない。
そのあと、タクシーに乗った。
人っ子ひとりいない寂しい通りでポツンと停まっていた客待ちのタクシーの運転席を覗くと、運転手が何かにうなされるような、これまた悲哀の顔で居眠りしていた。
彼を起こすのも何だか悪いような気がしたので、乗車をあきらめていったん歩き出したが、又すぐ引き返してやっぱり運転手をたたき起こした。
そう。
なんだかその時、居眠り運ちゃんと自分が世界に二人ぼっちのような気がしたのだ。
星空の下に取り残された惨めな二人っきりのような気が。
そんなつもりはないのに、バカな俺は「お疲れですね。」などとイヤミったらしい言葉を吐いてしまった。運転手はバツの悪そうな返事をした後、すぐにプロドライバーの姿勢に戻った。
そして、あたりさわりの無い世間話を一言二言交わしたが、それっきりだった。
ホントはあの時、教えて欲しかった。
いろんな、いろんな、いろんなことを。
きっと彼は知っていたと思う。
方法や、答えや、正体を。
闘うすべも、逃げるすべも、闘わずして逃げないすべも。
家に戻って、胃袋のなかの物と、背中にへばりついていた惨めな気分を
全部まとめて便所に流してやった。
そして、泥のように眠った。
こんな茶番みたいな夜があったことを、今日ふと思い出したのだ。